肺癌とアスベストについて
選んだキーワード
『lung cancer』『asbestos』
はじめに
近年、アスベストについてのニュースをよく耳にするようになり、つい先日も、兵庫県尼崎市の小田地区に住んでいた女性が悪性中皮腫で死亡する率は最大で全国平均の70倍近いことが分かったと報じられていた。川崎医科大学では昨年から改修工事が進んでいるが、しばしばアスベストの除去作業が行われているようだ。こんな身近な環境にアスベストが存在していたことを知り、自分の無知を恐ろしく思うと同時に自分の身を守るためにもアスベストについて知りたいと考えた。このようなことから上記のキーワードを選びまとめてみた。
ビデオの内容
兵庫県のクボタというアスベストを取り扱う工場があり、付近に住む住民たちは肺癌や悪性中皮腫になるなど、多大な影響を受けた。アスベストに暴露してから発症するまでに何年もかかるため、現在でも過去の暴露に苦しむ人々が多々いるのが現状である。アスベストと肺の疾患の関連性をクボタは長い間認めようとしなかったため、被害は拡大し、訴訟問題に発展している。
論文の概略
アスベストはとても小さな天然繊維であり、世界中に存在する天然の鉱物である。アスベスト線維を吸い込むことで、肺癌、アスベスト症、胸膜プラーク、胸水、悪性中皮腫などの多くの呼吸器疾患を引き起こす。アスベスト関連肺疾患の患者のほとんどは強い暴露歴を持つが、ほんの少しの暴露でも重篤な疾患は起こりうることが分かっている。一昔前までは、その柔軟性、耐久性、熱や化学物質による腐食への耐久性のため、産業界では広く用いられていた。1980年にアスベスト繊維の吸入と肺癌の関係が証明され、1907年に初めてアスベスト暴露患者の死が報告された。暴露が法的に規制されたのは、1931年のイギリスであったが、アメリカでは1971年まで法律化はされなかった。
現在アスベストの暴露は規制されてはいるものの、暴露から発症までの期間が長いことから現在も問題になっている。アスベスト関連疾患の発生のピークは、アスベスト使用のピークから30〜40年後に到来すると予想される。悪性中皮腫は潜伏期間が長いため、2020年までにヨーロッパで発症のピークを迎えるであろう。アメリカでの有病率は知られていないが、2000年には2万の病院で悪性中皮腫の診断が下され、アスベスト暴露による死は2000件に昇ると見積もられていたのだが、それらの数値はこの20年で更に上がると思われる。他の研究では、1985〜2009年の間にアスベスト関連肺癌での死亡は平均毎年3200件あると報告されている。
アスベスト関連疾患は職歴が十分な診断根拠となりうる。その職歴は建築職やボイラーメイカー、鉄道工、海兵などである。アメリカでは職業暴露が規制されてはいるが、過去にアスベストの暴露があったという事実は認められなければならない。個人のリスクを明らかにするために、職歴や今までの生活環境を理解することは大切である。しかし、産業暴露は注目されているにもかかわらず、環境については以前のままなのが現状である。
検査の方法としては胸部X線や肺活量測定が挙げられる。予後は疾患によって異なるが、悪性中皮腫の予後は悪いのに対し、アスベスト症は一般的に進行が遅く、予後は良い。アスベスト暴露があり肺癌の患者には、一般的な肺癌の治療を施す。又、一般的な肺癌と同じく、アスベスト暴露歴のある患者にとって喫煙は大きなリスクファクターである。
アスベスト症があるということは肺癌が進む原因となりうる。このように、呼吸困難や咳、胸痛、体重減少などの症状などが出たら、迅速で十分な評価が必要である。現在勧められていることは、暴露歴があるかもしくは現在暴露している人が、生涯にわたって検査していくことを保障していくことである。アメリカの胸部団体は病気をもつ人に3〜5年毎に胸部X線や肺機能テストをすることを勧めている。
考察
現代社会の利便さは、科学技術や工学などの発展があってこそのものであり、その発展の裏側に様々な失敗や試行錯誤があったことは言うまでも無いだろう。アスベストの開発も科学技術の発展の一つの段階であり、アスベストに関する社会問題の原点は、その有害性にはなかったと考える。この社会と医療の問題について考えなければならないことは多くある。まず、アスベスト暴露の責任の所在はどこにあるのだろうか。アスベストを開発したグループか、それを使い続けたクボタのような会社か、そのような会社がアスベスト使用を止めた後の保障制度などを作っていなかった社会だろうか?次に、暴露があった人に対して追跡調査を行い、早期発見早期治療をすることで救えた命はもっとあったのではないか。問題点を挙げるときりが無いのが現状である。
このように、一つの社会問題を解決するためには、 様々な立場からアプローチをしていくことが必要になる。医療を志す者としての立場からは、社会と医療の問題に関して先見の明を持ち、治療だけでなく予防という観点からもその問題にアプローチできるだけの知識と技術を身につけることが必須であると考える。
まとめ
アスベストが実際にどのような物で、どのような場所にあり、どんな疾患を引き起こすのかを調べまとめてみた。
石綿(アスベスト)の繊維は、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることが知られている(WHO報告)。石綿による健康被害は、石綿を扱ってから長い年月を経て出てくる。例えば、中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いとされている。仕事を通して石綿を扱っている方、あるいは扱っていた方は、その作業方法にもよるが、石綿を扱う機会が多いことになるので、定期的に健康診断を受けることが勧められている。現に仕事で扱っている方(労働者)の健康診断は、事業主にその実施義務がある。(労働安全衛生法)
石綿を吸うことにより発生する疾病としては主に次のものがある。労働基準監督署の認定を受け、業務上疾病とされると、労災保険で治療できる。
以下にアスベスト関連疾患を示す。
(1)石綿(アスベスト)肺
肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つである。肺の線維化を起こすものとしては石綿のほか、粉塵、薬品等多くの原因があげられるが、石綿の暴露によっておきた肺線維症を特に石綿肺とよんで区別している。職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15〜20年といわれている。アスベスト曝露をやめたあとでも進行することもある。
(2)肺がん
石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていないが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされている。また、喫煙と深い関係にあることも知られている。アスベストばく露から肺がん発症までに15〜40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られている。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがある。
(3)悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍である。若い時期にアスベストを吸い込んだ方のほうが悪性中皮腫になりやすいことが知られている。潜伏期間は20〜50年といわれている。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがある。
(4)
胸膜プラーク
胸膜プラークは、胸膜に生じる局所的な肥厚をいい、肉眼的には表面に光沢のある白色ないし薄いクリーム色を呈し、凹凸を有する平板状の隆起として認められる。胸膜は2 層となっているが、びまん性胸膜肥厚が臓側胸膜(肺や気管支を覆う胸膜)に生じるのに対して、胸膜プラークは、主に壁側胸膜(胸壁を裏打ちする胸膜)に生じる。通常、アスベスト曝露後少なくとも10 年以上、おおむね15〜30 年で出現することが知られている。胸膜プラークそのものでは、通常、肺機能低下は起こらないが、広範囲に及べば、その程度に応じていくらかの障害をもたらす。
(5)
アスベスト小体
アスベストの繊維は、直径が極めて細いために肺胞まで到達する。また、滞留したアスベスト繊維をマクロファージ等が排除しようとしても、肺胞まで到達し得る通常の微細な粒子よりもアスベスト繊維は長いことなどにより、その機能が働かず、そのまま長い間滞留する。そうしたアスベスト繊維の一部は、タンパク質と鉄が付着して茶色の鉄アレイ状となる。これをアスベスト小体とよぶ。
アスベスト小体は、角閃石族のクロシドライト及びアモサイトについては、アスベスト曝露のよい指標となるが、蛇紋石族のクリソタイルの場合は、角閃石族のアスベストと比べ、アスベスト小体が形成されにくいなどの性質を持っており、実際の曝露量とずれを生じる可能性がある。
私たちの日常生活に関係する住居を考えた場合、通常、一般の戸建て住宅でアスベストそのものを建材として使用することはない。しかし、耐火性を確保するために吹き付けアスベストが使用されていることが考えられる。それと屋根材、壁材、天井材等としてアスベストを含んだセメント等を板状に固めたスレートボードなどが
使用されている可能性がある。その他に屋根瓦、屋根用波板、石膏板、天井用化粧板 ガスケット、シーリング材、パッキングなどもアスベストを含む場合がある。その部分が露出していると、年月による劣化でアスベスト繊維が飛散する危険性はないのか。
しかし、固めたスレートボードや天井裏・壁の内部にある吹付けアスベストから通常の使用状態で室内に繊維が飛散する可能性は低いと考えられる。外気にさらされる屋根瓦、屋根用波板などもアスベストが飛散するに至る状態は考えにくいとされている。但し、建物の解体時にはアスベストの飛散を防ぐための細心の注意が必要とされるだろう。その他、身近な施設の中ではマンション等の駐車場で使われている場合があるが、これも住宅内部と同様、通常の使用の中でアスベスト繊維が飛散しないように点検・整備が行われている。
建築関係以外でアスベストの使われた可能性のある製品を見てみる。自動車や鉄道車両のブレーキパッド、クラッチ板、これらは耐火性、耐摩擦性を考慮してのもので、同様の使用例は自転車のブレーキ部分にも見られる。そして道路の凍結防止等を目的としたモルタルやアスファルト混和材としてアスベストが使用されている。
身近な家庭用品に目を向けると、中でも内部が高温になる電化製品は、その耐火性からアスベストが使われている可能性が高くなる。トースターやストーブのヒーター保持の部分をはじめとしてエアコン、冷蔵庫の一部の商品、そしてガス湯沸し器、給湯器などにも使用報告例がある。これらアスベストを使用した商品を製造したいずれのメーカーも、代替物質の開発によるアスベスト根絶に向かっている。